たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
* * *
「家は、ここから近いの?」
2人で電車を降り、彼の言葉に頷いて、左手で5、右手を1と表して15分程であることを伝えた。
すると、すぐにそれを汲み取ってくれたらしい彼。
「15分って、近いようで遠い、微妙な距離だね」なんて。そう零すと、どこか考え込むような仕草を見せる。
(……本当に、綺麗な人だなぁ)
伏し目がちに視線を落として顎に指を当てているだけなのに、何故だかそれがすごく絵になる。
頭の回転も速いのか、初対面の人とこんなにもすんなり【会話】が出来るという事実に、私は内心驚いていた。
だって、私の言いたいことを携帯電話を使わずとも汲み取ってくれるのは、家族、蓮司にアユちゃんくらいで。
それ以外の人には携帯電話と一緒にジェスチャーをきちんと使わないと、言いたいことや感情を伝えるのは難しい。
……そして、そんな風に私と会話をするのが面倒くさくなって、みんな、私との【会話】に慣れる前に離れていく。
その後は、さり気なく避けられて。私も近づくと迷惑になることはわかっているので、その人達との関係はそれまでだった。
この5年で、そんな経験を何度したかわからないから、私の中ではそんなことも当たり前になっていたけれど。