たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
Viola(ヴィオラ)
偶然の重なりで、なんとなく距離を縮めた彼女“栞”とは、それから朝の電車で同じ時間を過ごすようになった。
6時45分、一両目。
駅のホームでぼんやりと携帯を眺めていれば、俺の肩を彼女が遠慮がちに叩く。
ただ、今朝においては、不意に制服の袖口を引かれて振り向けば、ハニかんだ笑顔を見せる彼女が立っていて。
俺を見上げながら、口の動きだけで必死に「おはようございます」という挨拶を伝えようとする姿とその笑顔に、不覚にも一瞬胸を高鳴らせてしまった。
─── 平塚 栞、高校2年生。
つい数週間前から俺と同じ電車に乗ることになった理由は、図書委員の仕事の為らしい。
正直にいってしまえば、どうしてあの時自分が栞に歩み寄るような、そんな行動に出たのかわからない。
煩わしいことは嫌いだし、人との関わりは最低限のものでいいと思ってる。
だから、本来であれば、あんな風に自分から歩み寄ることなんてない。
その上、栞の事情を知った人間の多くが、栞と関わることを本能的に避けてしまうことも珍しくないだろう。