たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
 


「確か、そこの角を曲がったとこ、だよね?」


「(……っ、)」


「15分。思ったより、あっという間だったね」



─── 今だって、私は気付いてる。


歩きながら携帯で文字を打つのは危ないから、先輩は私がモノを使わずに返せる言葉を投げ掛けてくれていたこと。


唯一。先輩にどうしても伝えたい言葉があって、一度だけ生徒手帳を取り出したけれど、それだけだ。


先輩は、「はい」や「いいえ」で返せる言葉ばかりを私に投げていた。


先輩は決して口には出さないけど。そんな先輩の優しさくらい、私だって気付いています。




……世界が、まだこんなに温かいことを。


先輩は、この短期間で私に教えてくれたんです。


 
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