たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
「それじゃあ、俺はここまで。……また明日、いつもの場所で」
見上げた先にいる先輩に、伝えたい言葉がたくさんあった。
“ありがとうございます”
“先輩のこと、もっともっと知りたいです”
“……もう少し、一緒にいたいです”
だけど、滲む世界にそれを伝えることは出来なくて。
震える唇をゆっくり開いてなんとかお礼だけ伝えれば、先輩の手の平が再び私の髪に優しく触れた。
「……あんまり、可愛い顔で見上げられると離れ難くなる」
「……っ、」
「早く家に帰らないと、栞のご両親、心配するよ?」
するり、降りてきた手は頬に触れた。
だけど、その手は酷く冷たくて。目の前にいる先輩が本当にそこにいるのか……
何故か無性に不安になって、私は導かれるように頬に触れている先輩の手に自分の手を重ねた。