四百年の誓い
 「……」


 社会科準備室に招かれ、応接間のソファーに座っていたら圭介がお茶を準備してくれた。


 湯のみ茶碗を手にしたまま美月姫はうつむき、口をつぐんでいた。


 「あの時忠告した通り、投げやりにならないでよかっただろ?」


 あの時。


 つまり美月姫が強引に圭介に迫り、拒絶された時。


 「ごめんなさい……」


 小さな声で、美月姫が謝罪の言葉を口にした。


 「何謝ってるんだ。お前を振ったのは、俺のほうだ」


 圭介は明るく笑う。


 自分が悪者ぶっているが、一度育った想いを断ち切るには、かなりの苦痛を伴った。


 前世、福山冬雅だった頃の記憶が甦り、月光姫の生まれ変わりである美月姫は、愛してはいけない女であると思い知らされた。


 もし奪ってしまえば、また悲劇は繰り返される。


 次の世にも悲しみは持ち越される。


 それを防ぐために、悲劇の連鎖は自分の代で終わらせようと誓った。


 ゆえに身を砕かれる思いで、美月姫を突き放した。


 自然と優雅の元へ旅立てるように。


 それがかつて弟である福山冬悟を死に追いやったことに対する償いであり、贖罪。
< 275 / 395 >

この作品をシェア

pagetop