四百年の誓い
 「冬悟さま」


 月姫は嬉しかった。


 はじめて出会ったあの夜から、月姫は美しくて優しい福山冬悟に心惹かれていた。


 しかし。


 「無理です……」


 そう答えるしかなかった。


 「なぜだ? 私が嫌いか?」


 「殿がお許しになりません。周囲の誰も」


 「兄上も他の誰も関係ない。この私が姫、そなたを妻にと望んでおるのだから」


 冬悟が真っすぐに月姫を見据える。


 見つめられるだけで、こんなにも胸がときめくのに……。


 「私のような身分の低い者が冬悟さまのそばにいては、冬悟さまの迷惑となります」


 月姫は冬悟の将来を思い、身を引こうとした。


 冬悟は当主・福山冬雅の異母弟。


 嫡男のいない冬雅はいずれ、年の離れた異母弟である冬悟を養子に迎えて家督を継がせようとしていると噂されていた。


 福山家の当主は代々、京の都から公家の姫君を正室に迎えるのが慣例。


 冬悟もそれに従わなければならないと思われていた。


 だが周囲の意向に反し、領内の城主階級の姫にすぎない月姫を妻に迎えようとしている。
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