四百年の誓い
 「姫を幸せにしたい。だが私にもしものことがあった場合は……。先ほどの約束を決して忘れないでくれ」


 「はい……」


 冬悟は月姫の頬を両手で支え、そのまま唇を重ねた。


 初めての口づけ。


 互いの想いをも重ね合う。


 「冬悟さま」


 口づけの後、初夏の薫る風の中、二人は改めて強く抱き合った。


 「いつまでも、二人で生きていこう」


 「はい、きっと……」


 温もりを確かめ合う二人は、万が一の事態について語り合っていたとはいえ、こんな日々が失われるはずはないと信じて疑わなかった。


 だが。


 冬悟は無事に出兵を追え、福山城に帰城。


 月姫との婚約が成立する直前になって、当主の福山冬雅(ふくやま ふゆまさ)が月姫に横恋慕。


 そして権力拡大を目論む側近の赤江(あかえ)に冬悟はそそのかされ、謀反を仕向けられ密告され捕らえられる。


 やがて謀反人として処刑……。


 月姫は一人、絶望の世に取り残された。


 冬雅の側室となる以外に、生きる道はなかった。
< 327 / 395 >

この作品をシェア

pagetop