四百年の誓い
 「先生も、お時間ありましたら是非遊びにいらしてください」


 同封してある手紙の最後には、そう記されていた。


 これは美月姫の文字だ。


 圭介はそっと微笑み、便箋を伏せようとする。


 二人の幸せを祈ってはいるものの、やはりすぐそばで二人の幸せを見せつけられるのには抵抗があった。


 かつて愛した女に似ているとの理由がきっかけとはいえ、一度は抱きたいと願った教え子。


 身を引いたのは自分なのに、想いが冷めたり途絶えたわけではない。


 未だに胸が痛むこともある。


 自分が望んだ道のはずにもかかわらず、別の男と幸せに暮らしている姿を受け入れるは、やはりつらい。


 遠くで見守っているのが一番だと思っていた。


 「先生も、幸せを見つけてください」


 美月姫からの手紙は、その一文で結ばれていた。


 彼女の素朴な願いは、残酷なナイフ。


 未だに圭介の心を、深くえぐる。


 圭介はそっと便箋を伏せて、窓の外を眺めた。


 満開の桜が、月に照らされている。


 「あいつらの住むあたりは、これから満開の季節だな……」


 札幌近郊は函館よりも、ピークが少し遅れて訪れる。
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