四百年の誓い
 「星は、一年かけて天を一回りします」


 月姫はようやく語り始めた。


 「いかにも」


 「つまり、今この時と同じ位置に同じ星を眺めるには、一年待たなければなりません」


 「その通りだが、それがどうしたというのだ?」


 「人生五十年と申します。となると私がこうして同じ星を冬悟さまと見上げることができるのは、あといったい何回になるのでしょうか。それを思うと何となく悲しくて……」


 「姫……」


 黙って月姫の言葉に聞き入っていた冬悟は、そっと抱き寄せた。


 「確かに、私が姫と共に生きられるのは、あと二、三十年くらいがせいぜいだ」


 冬悟は月姫の髪を撫でながら告げる。


 「だがそれは、悪あがきをしても仕方のないことだ。与えられた時を悔いなく過ごすことしか、術はないのではないか?」


 「……」


 「人生であと何度、二人でこうして桜を見られるか、私には分からぬ。だが姫、毎年こうして共に過ごそう」


 「冬悟さま」


 「舞散る桜の下、この腕の中に姫さえいるのなら、他に何も要らぬ」


 「私も……他に何も要りません」


 月姫はそっとささやいた。
< 364 / 395 >

この作品をシェア

pagetop