四百年の誓い
 「……そんなの、気にするまでもないじゃないか」


 優雅は再度、美月姫を抱き寄せた。


 「俺に他の選択肢は、ないんだから」


 選択肢。


 ……そういえば優雅にはかつて、旧華族出身でかの福山家の末裔である令嬢との結婚話があったのを美月姫は思い出した。


 その縁談ゆえに丸山乱雪は、美月姫と優雅を引き裂こうと画策した。


 美月姫には自らの甥である京を、結婚相手としてあてがったほど。


 だがそれら婚約話は、両方とも。


 丸山乱雪の引退後、優雅が地盤を継承せず政治家の道を歩まなかったことにより、霧散した。


 令嬢は優雅に未練があったようだけど、肝心の優雅が美月姫しか見ていなかったので断念せざるを得なかった。


 静かに身を引いた。


 京のほうは?


 敬愛する幹事長の命令ということで、仕方なく引き受けたスタンスを取ってはいたものの、一度だけとはいえあやまちを犯しそうになったことも。


 裏表のある男ではあったとはいえ、表向きは礼儀正しい好青年像を演じ続けており、美月姫の両親に非常に気に入られていた。


 そんな京ではなく優雅を結婚相手として自宅に連れて行った際の、両親の驚いた表情といったら……。
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