二人の穏やかな日常
暫くお父さんは、明日は休みだしということでそれからもお酒を飲み続けた。
もちろん次はアルコール度数の低め、お酌するのはお母さんで。
お父さんがそのまま眠りに落ちてしまってようやく斎藤さんも帰る頃に。
送っていく私をお母さんが「あらあらすぐ隣なのに」と冷やかすように笑ってきて、斎藤さんと二人で照れ笑いを溢した。
「斎藤さん、遅くまでありがとうございました」
「いえ、本当に良かったです。認めてもらえて。普通なかなか認めてくれるもんじゃないですよ。それに……前原家は団結力がすごいですね」
斎藤さん家の玄関の前で暫く話し込む。
家族のことを褒められて照れてしまって、笑いを返すことしかできなかった。
「ともかく、これでようやく本当に恋人同士になれた気がします。改めて、これからよろしくお願いします。前原さん」
スーツ姿でそんなことを言いながら丁寧にお辞儀をされたものだから、ジャージ姿の私は「わ、こ、こちらこそ」と慌てて返す。
顔を上げると斎藤さんは、ふ、と柔らかい笑顔を溢した。
「これで心置無くイチャイチャできますね」
「い、イチャイチャって」
「おやすみなさい」
ぽん、と頭に斎藤さんの大きな手が乗った。
「おやすみ、なさい……」
斎藤さんが家に入ったあとも暫く動けなくて、その場で固まっていた。
自分でもぼんやりしすぎた声でびっくりしたけど、ただ頭にぽんと手を置かれるだけでこんなにドキドキするものなのかと、こんなにずっと一緒にいたくなってしまうものなのかと。
自分の気持ちが怖いくらいだった。