二人の穏やかな日常

「す、すみません」
「最低……私本気で落ち込んでるのに」
「そうですよねすみません!」
「斎藤さんは二橋ですもんね!高学歴ですもんね!こんな偏差値とったことありませんよね!」
「いやそんな」


さすがに偏差値35はとったことないけど。
それは世の中大半の人がとったことないんじゃないかな。

と思ったけど、それを言うと事態を更に悪化させるだろうと思ってうまく言葉が出てこなかった。


「斎藤さんに勉強教えてもらおうと思って来たけど、こんな人だと思いませんでした!私は確かに馬鹿だけど斎藤さんは馬鹿にしないだろうと思ってたのに!」
「ば、馬鹿にしてないですよ!」
「だって偏差値見てウケるって笑ったじゃないですか!これだから高学歴は嫌いなんです!」


前原さんは立ち上がると、テレビの横に置いてあった盆栽用の空の霧吹きを勢いよくとって立ち上がった。

キッと俺を一睨みしてから台所に向かって歩く。

すごく怒ってるけどドスドスは歩かなくて。

それはさすが長い間このマンションに住んでるだけあって、どんなに怒っていても下の人に迷惑をかけない冷静さがあるのだと、感心していた。

そんな場合じゃないのに。


台所から戻ってきた前原さんを見た瞬間、顔に冷たいものが。


「ちょ」
「もう知らない斎藤さんなんかもう知らないこれから一生撮影前日でも格好良いとか言いませんからねポテチ好きなだけ食ってぶくぶく太れば良いんだ」
「前原さ」


前原さんは恨みの籠った声で言いながら、水を入れてきた霧吹きを何プッシュも俺にかけてくる。
喋ろうとしてもそのせいで話せない。

こんなことする彼女初めてだ。


「実家に帰らせていただきます!」


こん、と勢いよくテーブルに置かれた霧吹き。
前原さんは威勢良く吐き捨てた。

実家って。


「隣ですよね?」
「ああ!?」
「ひっ」


前原さんは最後にまたワンプッシュ俺に水をかけるとあっかんべーをして出ていった。
< 103 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop