二人の穏やかな日常
「びっくりした……」
ティーシャツの袖で顔を拭った。びしょびしょだ。
置いていってしまった模試の結果の紙をぼんやり眺めながら、追いかけた方が良いのか、と考えた。
いやでも実家に帰るとか言ってたし隣だし別に心配することはないか。
勉強教えてもらおうと思って来たけど、と言っていた前原さんを思い出して、申し訳なくなった。
やっぱり人の模試の結果見て「ウケる」と言ったのは良くなかった。いくらお酒が入っていても。
家に戻った前原さんを心配することはないけど、申し訳ないことしたから謝りにいくだけでもしよう。と、立ち上がったら。
鍵を開けっ放しにしていた玄関の戸がガチャリと開いて、前原さんがやって来た。
あれだけ威勢良く出ていって三分もせずまた来るとは、と驚いたけど、ああ模試の結果を取りに来たのかと。
でも違った。
「……すみませんでした、斎藤さん」
前原さんは弱々しく言って、深く頭を下げた。
「ど、どうしたんですか前原さん」
「隆二に愚痴ったら〝お前が悪い。勉強してないんだから頭悪くて当たり前。勉強してないやつが馬鹿にされたって仕方ない勉強しろ馬鹿〟って言われました……」
隆二くん、いくら弟でも凄いな。スパルタすぎないか。
「反省しました……本当その通り……」
「いやいや、僕の方こそすみません。勉強教えてもらおうと来たんですよね?勉強する意欲作ってきたのにあんな態度されたんじゃムカつきもしますよね。すみませんでした」
前原さんがキレたのは初めて見たしあんなに恐ろしいとは思わなかったけど、少し嬉しい。
キレるっていうのは、素を出してくれてるってことだと思うから。
心を開いてくれているんだと思うと、嬉しくてたまらない。
それに反省に至るまでのスピードと素直さが、可愛いくって、思わず抱き寄せた。
「斎藤さん、袖びしょびしょ……」
「誰のせいでしょう」
「……私、です」
「そうです。大人しく抱きしめられてください」
「……はい」