二人の穏やかな日常

抱きしめてみると前原さんは、小さかった。
すっぽり収まってしまう体が愛おしい。


「前原さんは小さいですね」
「いや私どちらかと言うと大きい方なんですけど……」
「そうですよね。僕の周りの女の人たちが大きすぎるんですよね」
「ああ、モデル仲間の方とか?」
「それもあるけど、親戚中の女性がだいたい170越えた人ばっかだから」


前原さんは俺の腕の中で笑いながらモデル一家ですね、と楽しそうにしている。

髪を撫でてみると滑らかで、気持ち良い。



「さ、斎藤さん」
「ん?」
「私そろそろ心臓限界来そうなんですけど」


そう言った前原さんの顔を覗き込んでみると真っ赤で、なんでこんなに可愛いんだろう。と、思わず前原さんのおでこの髪をかきあげた。


不思議そうに俺を見上げる前原さんに微笑んでから、おでこに軽く口付けた。

離すと、前原さんはおでこを押さえて口をパクパクさせる。


「……そんなに赤くなられるとこっちまで照れるんですけど」
「だって!斎藤さん!」
「なんですか」
「ドキドキしすぎて死にそうなんです!」


前原さんはふらついてからパタリと倒れこんだ。
リアクション芸人みたいだ。


「でこちゅーでそんなリアクションしてもらえるんなら、普通のキスとかその先、どんなリアクションしてもらえるのか今から楽しみですね」
「なんてハレンチな!てかそんなこと期待しないでくださいよ恥ずかしい!」


二十四になって初めて恋愛でこんなにはしゃいだ。
恥ずかしいけど、そんな格好悪い自分が全然嫌じゃなくて。

前原さんの一挙一動を楽しみにしてる自分に気付いて、前原さんを好きになって、前原さんが俺を好きになってくれて、本当に良かったと、そう思った。
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