二人の穏やかな日常
イタズラシリーズ
①
「斎藤さんこんにちは」
「前原さん、どうしたんですか?」
「さっき自販機でジュース買ってきたんです。斎藤さんの分も、はいどうぞ」
突然訪問してきた前原さんからコーラを渡される。
「僕炭酸苦手なんですけど……」
おかしいな、前に自販機で会ったとき言わなかったかな。
覚えてないか、そんなこと。
「そうなんですか!?じゃあ飲めないですね……せっかく斎藤さんへの愛の気持ちを込めて自販機にお金入れてボタン押したのに……炭酸苦手なんじゃ……仕方ないですね……!」
前原さんはそれはそれは悲しみに暮れたように、今にも泣き出しそうに言う。
そんな顔されたんじゃ「飲みますよ!前原さんの愛がこもってるものなら!炭酸くらいいくらでも!」と言うしかないというもので。
俺はその一瞬前に前原さんが俯きながらほくそ笑んだことに、気付けなかった。
何の迷いもなくコーラの缶を開けた。
瞬間に、まるで噴水のように溢れだす茶色いコーラ。
「引っ掛かったー!」
「またやりましたね……?」
俺は玄関先で茶色い液体にびしょ濡れになり、恐らく直前まで前原さんが振っていたであろうコーラの缶を持って、立ち尽くした。
一口も飲んでないのに半分くらい減ってる。
困ったことに前原さんが最近、イタズラにハマっている。
どうもテータルトンボスというお笑いコンビがいて、彼らのイタズラ動画を見てハマってしまったらしい。
「小村さんのあのイタズラするときのワクワクした表情が可愛くて、藤畑さんのあの何回も引っ掛かるアホさと何でも笑って許してしまう優しさが素敵なんです」
そう語っていた。
良い迷惑だ。