二人の穏やかな日常

「……前原さんまず目閉じましょうよ」
「え、そうなんですか?」
「そうなんですよ。ドラマとかのキスシーンでもそうでしょ」
「言われてみれば、たしかに」


がっつり俺を見つめ続けていた前原さんの目が閉じられる。

こうして見てみると、睫毛が長いなー、とか鼻筋が綺麗だな、とか唇は小さいな、とか。よく分かる。

分かるだけに、すごくすごく照れる。


よし!男を出せ!ビビるな!と、出来る限り自分自身を奮い立たせ、前原さんの肩をそっと抱いた。
触れた瞬間、ぴくりと弱々しく揺れた肩が、とんでもなく愛しくて。

どうしようもなくて。



ファーストキスのときより初体験のときより、もっともっと緊張したそのキスの瞬間は、ただただ前原さんのことだけを考えていた。

他に何も見えない。
なんてことが本当にあるのだと知った。


一瞬触れて、離れた。

前原さんはやっぱりゆでダコのように真っ赤な顔で俯いていて、しばらく黙り込んでから俺の胸にポスンと入ってきた。

そのままそっと抱き締めた。


「……初めてキスした」


俺も、めちゃくちゃ久しぶりにキスした。
久しぶりすぎて一瞬やり方忘れてた。

それより何より、前原さんの初めてのキスをいただけたことが嬉しくて嬉しくて。
前原さんの背中にまわした手に、きゅっと力を込めた。


そうだ。キスって感動するもんなんだ。
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