二人の穏やかな日常

講堂に一番近いトイレにやって来て、智輝をトイレに行かせる。

なんだか慌ただしい。
文化祭なんだから当たり前だろうけど、この化学室前は特にだ。と、じっと見ていると。


「あ、斎藤さん!お兄さんも!」


中から前原さんが出てきた。


「やっほー百合ちゃん」
「この辺慌ただしいですね」
「化学室の中でいろんなクラスが準備してるんです、着替えたり。智輝くんは?」
「今トイレです。前原さんは着替えないんですか?」
「私は当然裏方なんで一日中制服です」


まあそうだろう。
前原さんは強制でない限りたとえ頼まれても舞台に上がったりはしたくないだろう。


「あ、お姉ちゃん!」


トイレから出てきた智輝は前原さんを見つけると一目散に駆け寄ってきた。
どんだけなついてんだ。


「智輝くんやっほー」


前原さんが屈んで智輝とハイタッチを交わしたとき、また後ろの化学室の扉が開かれた。

反射的に視線をやって、俺と兄ちゃんと智輝は固まった。


背の小さな、でもどこからどう見ても男であろう、シンデレラ。そんなシンデレラと、目が合った。
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