二人の穏やかな日常
女子更衣室で着替えや髪のセットを友達にやってもらうらしい。
友達というのは、以前前原さんがデートをするときに玄関先で会った子だった。
俺と兄ちゃんと智輝は近くでお店や進路関係のポスターを見たりして、暇を潰していた。
ホーリーくんは生徒指導の先生に、前原さんの異装の許可を頼みにひとっ走りしてくれている。
……こんな私的な理由で、許可なんて出るんだろうか。そもそも許可なんて求めて良いのだろうか。
考えていると。
「斎藤さーん!許可とれましたよー!」
ホーリーくんが紙を掲げて走ってきた。
「……出たんですか許可」
「はい!ほら!」
ホーリーくんが嬉しそうに見せるその紙を三人で覗き込む。たしかに先生の判子らしきものが押されてある。
ちょっと待てこの学校大丈夫か。
「前原の彼氏が明日夢を叶えるために外国へ旅立つから今日のこの文化祭は最後のデートみたいなもんなんで、シンデレラにならせてあげてくださいって言ったら、泣きながら判子くれました」
「……思いきり捏造じゃないですか」
何勝手に旅立たせてくれてんだ。
「……あの」
そうこうしていたら、背後で女子更衣室のドアが開く音と、戸惑ったような前原さんの声。
反射的に振り向いて、
言葉を失った。