二人の穏やかな日常
文化祭③
「行っちゃっ……た……」
三人残されて、呆然と斎藤さんが行ってしまった方を見つめながら小さく呟いた。
そのあと、思わず出てしまったため息。
「ごめんね百合ちゃん、俺もびっくりしてる……我が弟ながら……」
「お姉ちゃん元気出してね、俺たち一緒にいてあげるし」
お兄さんと智輝くんが励ましてくれる。けど。
「せっかくドレスだって着たのにな……」
なんだか、虚しい。
「まああいつ断れない性格だからさ」
「本当そうですよね……」
「あいつの話、聞きたくない?」
「え」
顔を上げると、お兄さんが楽しそうな表情で私を見ている。
斎藤さんのお兄さんということは、斎藤さんが生まれたときから一緒にいて、一緒に育ってきたということで。
極端な話、斎藤さんのことは知り尽くしてる、と言っても過言ではない。かもしれない。
「それはかなり、聞きたい……かも……」