二人の穏やかな日常

「あいつ、意外と独占欲とか強いんだなーと思ってね」
「独占欲……そんなもんが斎藤さんの中にあるとは思えないんですけど」
「だってさあ、これとか?」


そう言ってお兄さんは、斎藤さんが無理矢理私に着せてきたジャケットの袖を掴んだ。

ぶかぶかで、でも斎藤さんの匂いがする。

綺麗なドレスが台無しではあるけど、実はあのとき、嬉しかった。


「あんま見られたくないんだなー、そういう感情があいつにもあるんだなーと思うと、兄として安心したよ」
「へへ……そうですかね……。でも、」
「ん?」


言いかけて、止まった。

真正面のお兄さんの顔を見て、口が止まる。

本当、顔だけは、斎藤さんに似てる。
似てるから言い辛い。
なんか斎藤さん本人に告げるみたいで。


「……独占欲なら、私の方があるかもしれません」


おずおずと、伝える。
顔は見ずに、お兄さんの服だけを見て。
ファッションセンスは二人あまり似てないから。
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