二人の穏やかな日常
「今日だって、誘ったのは私なのに、校舎内歩いててずっと女の子の斎藤さんへの視線感じるし。男の子もだけど。……モデルさんだから、格好良いのも、注目浴びるのも当たり前だけど、でもやっぱ、あんま見られたくなくて」
「へえ、視線なんてあった?」
「めちゃめちゃありますよ!斎藤さんもお兄さんも見られ慣れてて分からないでしょうけど!でも駄目ですよねこんな風に思うの。モデルさんなんて見られてなんぼなのに」
ああ~まあね~、とあっけらかんとしたお兄さん。
「でも良いじゃん。あいつがどんなに見られようと、あいつが見てんのが、百合ちゃん一人なら」
あまりにさらりと言われたその言葉に、私は言葉を失った。
多分私今顔真っ赤。思わず机に突っ伏した。
そして、恐る恐る尋ねる。
「斎藤さんが見てるの、私一人……?だと思います……?」
「思う思う」
「何ですかそれ嬉しすぎません?なんかもうあり得ないくらい嬉しいどうしよう。そうだったら良いな……」
お兄さんの、楽しそうな笑い声が上から降る。
まだ顔は赤いままだろうけど、突っ伏していた顔を上げた。
「智輝お前諦めた方が良いぞ百合ちゃん」
「えっ、何、なんで!」
「お前今の会話聞いてて分かんなかったのかー?」
「何言ってんのかよく分かんないよドクセンヨクとか……」
「まあつまりお前の入る隙はないってこった。諦めて幼稚園の女見ろ」
「駄目だあいつらペチャパイだもん」
「心配すんなあと十年もしたらこうなってるさ」
お兄さんが私を指差したその人差し指をへし折った。
斎藤さんの優しさを教えてくれたり相談に乗ってくれたり、良い人?と思ったけど、やっぱりデリカシーの無い人だった。