二人の穏やかな日常
「斎藤さん」
「本当すみません前原さん……思ったより長引いて……」
腕時計で確認すると、斎藤さんが行ってしまってから、もう三十分が経とうとしていた。
三十分も話してたんだ、斎藤さんのこと……。
「怒ってます?よ、ね?」
「……」
「気を取り直して、い、今からデート再開しましょう!」
「……」
怒ってた。けど。別に今は怒ってない。
だって私は斎藤さんの、そういう断れない優しいところが好きなんだ。
だけど困った顔で私の機嫌をとろうとする斎藤さんが可愛くて。暫く怒ったふりしてよーっと。と、頬杖をついて黙りを決め込む。
「前原さーん、ほら、3Aはわたあめらしいですよ!良いですね!奢りますから!」
「……」
「前原さん、こっち向いてくださいよ……」
「……」
「おーい」
「……」
「……百合」
緊張のこもった声で呼びかけられて、思わず斎藤さんを見上げてしまった。
斎藤さんはすごく照れくさそうに頭を掻いてて、でも私と目が合うと、すごく嬉しそうに笑う。
から、つられて私も一緒に笑ってしまった。
しまった、暫く無視してやろうと思ってたのに。
……ま、いっか。
「さ、智輝。こっからはお父さんと二人でまわろうな」
「チッ、しょうがねえな……」
気を利かしてくれた二人。
斎藤さんが智輝くんに「え、何。智輝なんで急にそんな物分かり良くなったのこの三十分で何があったの」と驚いていて、智輝くんにギロリと睨まれていた。