二人の穏やかな日常
「斎藤さんもう一回!もう一回だけ百合って呼んでください!」
「うん、いつかね……」
二人でまわることになって、また手を繋いで校舎を歩きながら斎藤さんにおねだりをするのだけど、これがなかなか聞き入れられない。
「何回言ってくれても良いじゃないですかー」
「じゃあ前原さん僕のこと修一って呼べますか」
「修一」
「……そんなさらっと言われると思わなかったしなんか全く恥じらいもないし……」
「約束ですよ。修一って呼んだんだから百合って呼んでください」
「え、そんな約束してないです」
往生際の悪い……。
「よし分かった。百合呼びはもう良い。斎藤さん、とりあえずこっち来てください」
痺れを切らした私は、繋いだ手を強く引っ張って歩く。
「どこ行くんですか」
「一番奥の階段」
「はあ……なんで?」
なんで、と聞かれても。
あってもなくても困らないような階段で使う人が特にいないせいで、人通りが少ないから?
だけどそれには答えず、ずんずん進んで、そこに辿り着いた。
「斎藤さん」
「はい?」
斎藤さんの手を放し、振り向いて、斎藤さんを見上げた。
「キスしてください」
単刀直入に告げると、斎藤さんは目を丸くした。
だって私でさえ自分でも何言ってるんだろうって思うし、でも。