二人の穏やかな日常

『百合ちゃん!【竹下は今日もゆく】の試写会当たった一緒に行こう!』
『すごい!行きたい』
『まじで!?』
『うん!なんで?』
『だっていつも断られてるからびっくりした。良かったー、しつこく誘い続けて』
『楽しみだねー(*^^*)いつなの?』


その後富井くんが詳細を教えてくれたところで、トークは切れていた。

勝手にこんなことする馬鹿は隆二以外考えられない。


「ただいまー!」


おや、いたずらボーイのお帰りだわ。


「隆二」
「お、百合起きてたか。ああ、ラインのやり取り確認したか?」


姉の威厳を出来る限り醸し出して仁王立ちしてみたけど、隆二はしれっとそう言いながら、手を洗いに行った。


「あんた何平然と」


そのまま隆二の後ろを着いていって、手洗い場で手を洗う隆二の正面にある鏡ごしに睨みをきかせる。


「いやあ俺それ見るかどうか迷ってたんだよ。お前一回確認してこい。ほんで当たりかはずれかしっかり吟味してこいよ!」


タオルで手を拭いたあとで肩をぽんっと叩かれて、隆二はそのまま私の横を通りすぎようとした。


「ちょっと待てい!」
「何だよ不服なのかよ?」
「当たり前でしょ!?」


これで不服じゃない人の方がおかしい。


「あのなあ【竹下は今日もゆく】は、二百万部売り上げたベストセラーだぞ!出来損ないの転校生竹下は実は出来損ないを演じてる、五百年後の超エリート未来人で現代に送り込まれたんだ。それが現代で仲間たちと触れ合い、自分自身を偽ってることやいつか来る別れに苦悩しながら、エリートになるためだけに人生の全てをかけてきた冷たい心に優しさが宿るっていう、竹下の感動的な成長物語なんだよ!」


長文を早口で一度も噛まずに言い切ったその情熱は素晴らしいけども、そこまで話の筋分かってるなら当たりもはずれもないだろうが。
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