二人の穏やかな日常
「まあ富井くんもオッケーされた嬉しさでそこまで気回らなかったのかも」
「そうかあ?でもまあこれはもう断れねえな」
ホーリーは「諦めろ」というような口ぶりで、私のスマホを返してきた。
「はあ……」
「百合ちゃん!」
返してもらいながら思わずため息が出た、そのとき。
さっそく富井くんの声が教室の外から聞こえた。
振り向けば、今日も、いや今日は一層楽しそうな笑顔で、私に手を振っている。
「富井くん……。おはよ」
「おはよう!」
そのまま教室に入ってきて、私の席までやって来た。
「もう俺今から日曜が楽しみでさー、待ちきれないなあ!わくわくするね!」
「う、うん」
富井くんはこれでもかという程喜んでいる。
ちっちとホーリーからの視線がチクチクと痛い。
「でも承諾してくれたってことはさ、百合ちゃんも【竹下】気になってたの?」
【竹下は今日もゆく】は【竹下】と縮めて言うのか……。それすら知らない。
「いやあんまり知らないんだけど、弟が」
「ああ弟が【竹下】好きなんだ!?」
「う、うん」
「あ、だから弟のためにチェック?やっぱり優しいなあ百合ちゃんは!」
「あはは……」
全然優しくない。
私が隆二のためにそんなこと自主的にするなんて、死んでもあり得ない。
「でもやっぱり俺は映画が見れるってことより、百合ちゃんと二人で出掛けられるってことが何より嬉しいよ!」
「富井くん……」