二人の穏やかな日常
私がラインの返事をしたわけではないけれど、あまりに嬉しそうで、しかもそれを真っ直ぐ私に伝えてくれる富井くんを見ていると、すごく申し訳ない。
申し訳ないからこそ、余計に本当のことを言えなくなる。
本当に、どうしてこの人は私のことが好きなんだろう。
「じゃあね!」
今日も嵐のようなマシンガントークのあと、ひらりと手を振って教室を出て行った。
私はぼんやりと富井くんが出て行った扉の方向を見つめていた。
「あんだけ喜んでるんだ。取り敢えず行ってこいよ」
「これで、あの返事がまえほっぴー本人のものじゃないって知ったら、富井くんショックどころじゃないよ」
富井くんのことだから、きっと事実を知っても私を責めてきたりしないんだろう。
ただ笑って「なんだ、残念」とか言うと思う。
でも絶対、すごく傷付ける。
「なあまえほっぴー。俺が思うに、あいつと付き合うのも悪くないんじゃねぇの」
ホーリーの言葉に俯いていた顔を上げる。
ホーリーはわりと真剣な顔をしていて、ちょっと気持ち悪い。
「……この間と言ってることちがくない。イケメンは全員敵でしょ?」
「俺にとってはな。でも別にお前は関係ないし、それにあいつ、なんかちょっと痛いとこあるけど良いやつっぽいし」
良い、やつ……。
そうなんだよね、かなり変わったところはあるけど、実際すごく優しくて良い人には変わりないんだよね。
それはここ数日富井くんの側にいた私は、嫌でも知っていることだった。