二人の穏やかな日常
よく考えてみれば、斉藤さん家のインターフォンを鳴らすのは初めてで、自分から行くと言ったものの、緊張した。
留守だったら、とも一瞬思ったけれど、がチャリと音をたてて扉が開き斉藤さんはすぐ出てきた。
この人本当に仕事ないのかな、大丈夫なのかな。
「斎藤さん回覧板です」
「あ、どうもありがとうございます」
「……」
見上げるとバッチリと目が合った。
「あの、何か?」
斉藤さんが首を傾げて私を見下ろす。
「あ、すみません。今日あの雑誌買ったんですよ」
「え、本当ですか!ありがとうございます!」
取り繕うように出た言葉に、斉藤さんは跳ねるように喜んだ。
びっくりした、こんなに嬉しそうな斉藤さん、初めて見た。
「格好良かったです。びっくりしました」
「はぁぁ……もうお世辞でも嬉しいです」
斉藤さんの頬がゆるゆると緩んでいく。
なんだかそれが、すごくすごく、嬉しい。
「お世辞じゃないですよ。本当に斎藤さんがあの中で一番格好良いと思いました」
「え」
「え?」
途端、斉藤さんが笑顔のまま固まって、みるみるうちに赤くなっていく。
うわ、何これ。超可愛いんだけど。