二人の穏やかな日常
うん、そう言ってほしかったんだけど。
言われたら言われたで、恥ずかしすぎてどうすれば良いのか分からなくなる。
「前原さんこんなちゃんとした服も持ってたんですか?」
「私の服貸してあげたんです。今日この子、デートだから」
隣でちっちが答えた。
「デート……?前原さんが……?」
信じられない、と目が言っている。
私だっていまいち信じられないくらいなんだから、斉藤さんは尚更だと思う。
「良い友達がいて良かったですね。デート頑張ってくださいね」
斉藤さんはそう言って玄関に鍵をかけると、私とちっちの横を通り過ぎて行った。
「すごい、モデルさんに会っちゃったー。やっぱ足長いね顔小さいねー」
「可愛いって言われた可愛いって言われた可愛いって言われた……」
「まえほっぴー?」
斉藤さんの「可愛い」が、声のトーンや間合いまできっちり記憶されるレベルで、頭にびしっとこびりついてしまった。