二人の穏やかな日常
しかし何だろう。やっぱり富井くんの隣を歩くのは落ち着かない。
私がいくらお洒落しようと釣り合ってる感ゼロだし。
……私が気にしすぎなのかなあ。
でも同じイケメンでも斉藤さんの隣を歩くのは違和感なかったな。
と、自販機にジュースを買いに行ったあとほんの少し、隣で歩いた日のことを思い出す。
まああのときは隆二もいたし、家のすぐそこだったからっていうのも大きい。
あと斉藤さんは実際おじさんで且つじじくさいってことも大きい。
「あ、あったあった。あの建物だよ百合ちゃん」
「あ、うん」
列ができた建物を指差されてはっとした。
「列びにいこう」
駄目だ駄目だ。
今一緒にいるのは富井くん。
他の人のことばかり考えるのはいくらなんでも失礼だ。
富井くんのことを考えておこう。
……いや、でも。やっぱり頭から離れないのだ。
斉藤さんの「可愛いですね」が。
妙に、どきどきする。
何故だろう。
富井くんの「可愛い」にそんな魔力はなかったのに。
もしかしたら斉藤さんの「可愛いですね」は小動物に感じるような可愛いかもしれないし、いや私そんなに愛らしくないけども。
もしかしたら妹とか小さい子に感じるような可愛いかもしれないし、だって私年下だし。
でも富井くんの「可愛い」は明らかに女としての可愛いを言ってくれてて。
なのに、なのに。
あ、富井くんの「可愛い」は免疫ができてたのかな。
そうかそうか、そうだったのか!
「ねー、百合ちゃん」
「はいっ?」