二人の穏やかな日常
「大丈夫?話してないよね、話して良い?」
「え゙ほっ、いや、ていうかそれ話されても私リアクションとり辛いんだけど…お゙へっ」
「二ヶ月前かなあ」
話して良い?
と聞いておいて私の返事は無視して勝手に話し始めた。
その間も私はひたすら咳をしていたのに、どこまで根性が座っているのか余韻に浸るように話し続ける。
マイペースすぎる。
「あの通学路の長ーい坂道あるでしょ?」
学校の最寄り駅を降りて暫く歩いたあと商店街に入る。
その商店街はなだらかな坂になっている。
登校のときが下りで下校のときが上り。
逆じゃくて本当に良かったと思う。
「朝もう遅刻ギリギリって時間帯、あの坂をダッシュで下ってたんだ。よく空き缶集めて売りに飛ばす自転車のおじさんっているじゃん?そういう人がいてさ、自転車押して歩いてたんだけど、バランス崩してそこら辺に空き缶が散らばったんだ」
「えほっ、ふんふん」
あ、喉治ったかもしれない。
「量多いわ坂道だからコロコロ転げ落ちていくわで悲惨だったんだけど、俺も遅刻しそうだし悪いと思いつつそのまま通り過ぎてようと思ってたんだ。でも、俺の前を走ってた同じ制服の女の子は、立ち止まったんだよね」
そこでようやく、ぴんときた。
もうすっかり記憶の彼方に追いやられてはいたけど、二ヶ月前、確かにそんな出来事があった。気がする。