二人の穏やかな日常
「で、結局俺もその女の子とおじさんと三人で一緒に拾ったんだけど。そのおじさんが『ごめんね、手臭くなっちゃうね、ごめんね』って謝ってきて、まあ実際ビールとかの缶が臭かったんだけど、その女の子『そんなの洗えば平気ですから気にしないでください』って」
「ああ……」
言った言った、そんなこと。
いやだってあれをスルーすると一日中モヤモヤしただろうし、あのときは謝ってくるおじさんに対して逆に申し訳なく思ったんだ。
しかしよく覚えてるなあ。富井くん。
「あのときのその女の子の笑顔にハートを撃ち抜かれたんだよね。結局遅刻して二人とも怒られたんだけど、全然後悔してないし寧ろその日一日清々しかった。ありがとう、百合ちゃんのおかげだよ」
私の目を見てそんな恥ずかしい台詞を吐ける富井くんは、やっぱりイケメンだと思う。
なるべくしてなったイケメンというか。
イケメンが似合う性格というか。
私は照れくさくなって、ひたすらオレンジジュースを飲んでいた。
「あのときの男の子富井くんだったんだ……」
「やっぱ覚えてなかったんだ。俺顔は覚えられやすいタイプなんだけどなあ」
「う、ごめんね」
ううん全然、と首を振った富井くんの笑顔は、私なんかよりずっと素敵な笑顔だと思うけど。
富井くんは私の笑顔にハートを撃ち抜かれたという。
いやシチュエーション込みの話だけど。
富井くんのことを正直面倒な人だと思ったことは何度か、いや多々ある。
けど、こうやって誠実な気持ちで私に想いを告げてくれることは、単純に嬉しい。
それと同時に、やっぱりこうやってデートみたいなことをするのは良くない、とも思った。
そう思うのはやっぱり、私が富井くんのことをそんな目で見れない、ということだと思う。
ここに来る前に会ったし、これからも嫌でも顔を合わす機会はあると思う、のに。
私はなんだか無性に、斉藤さんに会いたかった。