二人の穏やかな日常

「ただいまー」


そんな声が聞こえて、目が覚めた。

ていうかまた私は寝てたのか。
英単語のやり直ししてないよ。


眠たい目を擦りながら部屋を出ると、今帰ってきたばかりのお母さんと目が合った。


「おかえり」
「ただいま。今日は煮物つくるよ」
「やったー、オクラ入れてね」
「分かってる分かってる」


と、オクラが食べられる喜びを噛み締めていたとき、お母さんの手元に回覧板があるのを見た。


「回覧板、来たんだ」
「うん」
「私が回してあげるね」
「あ、また?良いの?」
「うん、早く読んで」
「はいはい」
「今」
「今?」


こういうのは何かきっかけがないといつまでも避けっぱなしになったりするから。
逆に言えば、きっかけさえあればすっと喋れたりするということだ。

そもそも斉藤さんは、私が斉藤さんを避けてるってこと気付いてるんだろうか?

……気付いてないか、斉藤さんのことだから。


お母さんが面倒臭そうに回覧板に目を通している間、その隣で私は腕を組みながら色々考えていた。
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