二人の穏やかな日常

いるかないるかな。
多分いるだろうけど。

二回目だというのに、インターフォンを鳴らすのは、なぜか前よりも緊張した。


「はーい」


ガチャ、と音がした。

久々の至近距離の斉藤さん。
一瞬固まってしまったあとで、しまった話題を考えてなかった、と気付く。


「……回覧板です」
「あ、どうもどうもー」


馬鹿か私は。
会話をするためにわざわざ回覧板持ってきたのに。

とのたうち回りたい気持ちになったけれど、話題は斉藤さんから振ってくれた。


「そういえば前原さん」
「はいっ!?」
「この間のデート、どうでした?」
「え」
「いややっぱりそういうのって気になるじゃないですか。聞きたかったんですけど、最近なかなか会話できなかったから」


なんかその言い方じゃ、斉藤さんは私と会話したかったみたいな……。

いやいやただデートの結果報告をお望みなだけだから。
ただのしがない好奇心だから。


「えっと、面白かったです。竹下の性格がすごく男前でドンピシャでですね」
「竹下?って言うんですか?デート相手」
「あ、いえ!すみません映画です。【竹下は今日もゆく】を見に行ったんです、その竹下の話です」


私としたことが、話の順番を間違えた。


「……ていうかですね、やっぱり私恋愛って向いてないんじゃないかなとか。思ったり、思わなかったり、らじばんだり……」
「あ、懐かしい。どうしたんですか。振られたんですか?」


首を横に振った。

斉藤さんが少しだけ屈んで私の顔を覗き込む。
その仕草、緊張するからやめてほしい。
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