二人の穏やかな日常

「ていうか別に付き合ってるわけでもないんですけど、やっぱり落ち着かなくて、デートとか」
「……それは、単純に相手が合わないだけじゃないですか?」
「え?」


顔を上げた。

斉藤さんは真顔で、案外真剣に私の超初級の恋愛相談に乗ってくれていた。


「だから別に一回デートがしっくり来なかっただけで、恋愛向いてないかどうかは分からないと思いますよ。そんなことで恋愛から遠ざかるのは良くないです、まだ若いんだから」


そう言って斉藤さんは、にっこり笑った。

私は「はい」としか言えない。



「前原さんは、どんな男が好きなんですか?」
「え、私のこと口説いてるんですか?」
「こんな玄関先で隣人口説いたりしません」
「どんな……うーん、どんな人だろう。あ、既読無視を怒らない人ですかね」


私なりに捻り出した答えだった。

斉藤さんは一瞬目を丸くしたあとで、すぐその目を細めた。


「一発目がそれですか。ピンポイントですね。でも分かります」


言ったあとで、もし斉藤さんが既読無視を怒るタイプの人だったらどうしようやべぇ、と思ったけど、その一言で安心した。

どうやら斉藤さんも仲間らしい。
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