二人の穏やかな日常

「僕明日からフランスで撮影で一週間ほど家を開けるんです」
「おフランス!良いなー」
「お土産買ってきますね。で、その間水やりしてくれませんか、この子たちに」


水やり……。

まだ何も言っていないのに、顔に不安が出ていたのだろうか、私の両肩にぽんと手を置き、諭すように説明し始める斉藤さん。


「大丈夫!本当は土の表面が白く乾いてきたなって頃に水やってほしいんですけど、まあさすがに一日中僕の家にいろとは言えないですし、今は秋だから取り敢えず一日一回、植木鉢の下から水が流れてくるくらいたっぷり、お願いします」
「まあ、それなら……え、でも鍵が」
「だから鍵預けますね、もう一個の方」


そう言って斉藤さんはダッシュで部屋のタンスの中から鍵を取ってきてダッシュでベランダに戻ってくると、何の迷いもなく私の手のひらにその鍵を置いた。

おいおい、彼女でもこんな簡単に鍵預けられないって。


「い、良いんですか?鍵なんか渡して」
「え、だって前原さんそんな何も盗らないでしょ?盗ってもせいぜいルンバくらいですよね?」
「いやいやルンバも盗りませんし」
「ほう、じゃ安心だ。一週間前お願いします。なんなら好きなときにあの山積みポテチ食べて良いですし」


丁寧に頭を下げられた。


回覧板を届けに来ただけなのにこんな展開になることもあるんですね。
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