二人の穏やかな日常
斉藤さんがお隣にやって来て、三ヶ月。
初めてお隣さんがモデルだと知ったときは、夜通しパーティーの騒ぎ声とか女の人の喘ぎ声とか聞こえるんだと覚悟した。
失礼ながら。
「どういうことなんですか。モデルさんなんて女喰いまくりなんじゃないんですか」
「それは人によるでしょう」
てっきりモデルなんて皆チャラ男なのかと思っていた、今斉藤さん家の山積みポテチを見るまでは。
そうか、こういうタイプもいるのか。
「まあ僕だってモデルですから女の一人や二人食い放題ですよ。日替わりですよ」
「一秒でバレる嘘つかないでください」
「……はい」
私がクスクス笑っていると、斉藤さんは恥ずかしそうにはにかんだ。
近所付き合いとか、挨拶だけしておけば良いと思っていたし、斉藤さんはモデルだから尚更会話なんてし辛いと思っていたけど、いざ話してみるとなかなか楽しいかもしれない。斉藤さんは。
大して仲良くないクラスメートとかより遥かに話しやすい。おじさんくさいからか。
「あの、お電話借りれませんか」
「あ、良いですよ」
立ち上がって子機を取ってきてくれた。それを受け取ってから、気付く。
「……番号、覚えてない」
「……でしょうね。会社の番号なら調べたら出るんじゃないですか?調べます?」
「あ、なるほど」
斉藤さんはズボンのポケットからスマホを取り出した。
「すみません何から何まで」
「いえいえ、その代わりといっては何なんですけど、家空いたら味噌分けてもらえませんか。金欠で買えなかったんです」
「ああもう、どうぞどうぞ」