二人の穏やかな日常
「だったらこのままぐいぐい押したらいけなくもないって!多分!」
「あんたこの間堅実に富井くんいっとけって言ってなかったっけ」
「富井?誰だそれ」
「竹下の試写会の人」
「ああ……あいつか。……キープで良いんじゃね」
「うっわ最低」
キープなんて20代以降の悪女が考えることだと思ってた。最近の男子小学生怖い。
「あ、やべ、俺行かないと。じゃあな」
突然思考がサッカーに切り替わったのか、隆二はそう言うとすたこらさっさとベランダから出て、玄関まで走って出て行ってしまった。
サッカーボールを抱えながらスタタと駆ける姿は小学生で、久しぶりに可愛く思えた。
言ったらキレられるから言わないけど。
「疲れた……」
手摺を握りながら項垂れた。
別に何も悪いことはしてないのに、なんであんなに焦ってたんだろう。
それは私に、下心があるからか?
いやない。下心なんて。
そう、私が焦ったのは、隆二が勘違いしたら困るしその勘違いを親に報告でもされたらそれこそ終わりだから。
そう。下心なんてないない。
言い聞かせという名の自問自答。
盆栽でも眺めて心を落ち着かせよう。
斉藤さん、早く帰ってきてくださいな。
私は自分が、よく分かりません。