二人の穏やかな日常
さあ今日は。斉藤さんが帰ってくる日だ。
一週間、きっちり盆栽は守り抜いた。
今日は学校ではずっと、上の空だった。
下校も、おフランスのお土産は何かな、なんて考えながら下校途中の人気のない道をスキップしていたら野良猫と目が合って、なんとなく気まずかったくらい。
取り敢えずまっすぐ自分の家に帰って机の引き出しの中の斉藤さんの家の鍵を取ってきてから、お隣に向かった。
もう斉藤さん、帰ってきてる、よね?
インターフォンを鳴らした。
「斉藤さん、一週間お勤めご苦労様です!」
出てきた斉藤さんに即行で深く頭を下げると、「あ、どうもありがとうございます」と普通のトーンで返ってきた。
「前原さんも、盆栽のお世話ありがとうございました。本当に助かりました」
「いえいえ!鍵、返しておきますね。あとすみません、一つ謝らないといけないことがありまして……」
「えっ、なんですか」
斉藤さんは私から受け取った鍵をジャージのポケットに入れながら脅えたように私を見た。
「水やり終わったあとにこの玄関先で弟と鉢合わせしまして、危うくストーカー認定されかけたので事情を話したんですけども、斉藤さんが盆栽するわけねーだろと言われたので、証拠を見せるために弟も上がらせてしまいました。申し訳ありません」
深々と頭を下げる。
実はこれが斉藤さんの帰宅の上で唯一のネックだった。
やっぱり言うのは気が引けるけど、かといって黙ってるわけにもいかないから。
「なんだびっくりした……一体何を謝られるのかと思いました。全然良いですよそんなの。前原さんの弟なら」
「本当ですか?良かったああ……」
胸を撫で下ろしながら長く息を吐き出した。
斉藤さんがクスクス笑う。
あー、やっぱり落ち着く。