二人の穏やかな日常
目指すは主食系男子
「あ、前原さん」
「ああ、斎藤さん。おはようございます」
翌朝、家の下で斉藤さんと遭遇した。
まだ着替えていないのか、じじくさいジャージを着ていて、うっすら髭が生えている。
「おはようございます。前原さんは前原家のゴミ出し係りなんですね」
斉藤さんは眠そうな目で、私の持つゴミ袋を見て言った。
相変わらず柔らかい笑顔だ。
「ご名答です。昨日はどうもありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそありがとうございましたお味噌。僕がいつも使ってるやつより高い味がしました。美味しかったです……何キョロキョロしてるんですか?」
私がゴミ捨て場にゴミ袋を捨てて、同じく斉藤さんもゴミ袋を捨てたあと、首を傾げて私を見る。
「いえあの、昨日落とした鍵、どこ行ったのかなあって」
結局鍵は見つからなくて。
昨日お父さんにゲロ怒られて、お母さんと弟はそんな私を楽しそうに見ていた。腹立つ。
「それより、斎藤さん今日はお休みですか」
気を紛らすように話を変えてみた。
「はい。明日も休みです」
「……あまり仕事ないんですね」
「やめてください」
にこやかな笑顔が逆に怖い。
「じゃあ、行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
ぺこりと下げた頭を上げると、斉藤さんはゆらゆらと手を振っていて、ああこんな感じの人なんだ。と何故か可愛く感じてしまった。
そんな自分が妙にむず痒かったので早足で駅に向かった。