二人の穏やかな日常
さらっと
「ぴんぽんこんにちは!」
おっと緊張しすぎてぴんぽんまで口に出してしまった。
学校が終わって、自分の家に戻る前に斎藤さん家に向かった。
昨日帰ってきたばっかりだし、きっと今日はお休みだろう。
「おっ早速盆栽鑑賞会やっちゃいますか前原さん、どうぞどうぞ」
何のためらいも警戒もなく私を家に上がらせてくれた斎藤さん。
今日は別に盆栽に用はないけど、それは今はありがたい。
「そこ座っててください。今日はお茶にしましょう」
にこにこと私を前のようにあのテーブルの前に座らせると、台所にお茶を入れに行ってくれた。
すっかり盆栽鑑賞会だと思い込んでいるから、なんだかいつもよりご機嫌で。少し申し訳ない。
「はいどうぞ」
「あ、どうも……」
こん、と軽く二つの湯飲みが置かれた。
「じゃあ僕盆栽持ってきます」
「斎藤さん待って」
と、ベランダに向かおうとした斎藤さんの腕を掴んで無理矢理座らせた。
「すみません今日、聞いてほしい話があって伺ったんです」
「はあ……何だろ進路相談?」
「いえ」
「じゃあ恋愛相談?この間の続きですね」
「ま、まあちょっと近いです」
どうぞ話してください、と促すと斎藤さんは優雅にお茶をすする。
初めてここに上がり込んだ日、斎藤さんはコーヒーを飲んでいて、それもそれで似合ってたけど、今となっては日本茶を啜る斎藤さんの方が百倍似合ってる。と思う。
「あのですね、前私がデートに行く前、玄関先で会ったじゃないですか。それであのとき斎藤さんが〝可愛い〟って言ってくださって、すごく嬉しかったです」
「はは、前原さんも一応女の子なんですね。嬉しいんだ」
「嬉しくて……ドキドキしました」
それまでにこやかだった斎藤さんの表情が、途端に真顔になる。
初めて斎藤さんの真顔を見て、すごく、怖くなる。