二人の穏やかな日常

斎藤さんは吹き出したお茶で濡れてしまったテーブルを、台所から持ってきた布巾で慌てて拭く。


「前原さん大丈夫ですか火傷してないですか……っていつまでそんなもん見せてんですか早くしまいなさい!」


初めて斎藤さんに叱られた……。
しまいなさい、って、命令口調で……。

仕方なく私はおずおずとスカートをおろす。


「どうしでしたか」
「いやー……あのね、うん……」
「……いちころだって言ったくせに、嘘つき」


これじゃ見せ損だ。


「だってまさか僕で実践してくるとは思わないじゃないですか」


おろしたばかりのスカートの裾が、ぎゅっと握られるせいで皺がついてしまう。
だけどそんなこともどうでも良いと思うほどに、いっぱいいっぱいだった。


「……嫌でした?」


斎藤さんを見上げると、一瞬言葉に詰まったように私を見てから、しどろもどろに話し始めた。


「嫌じゃないっていうか寧ろご褒美……いやいやそうじゃなくて、」


斎藤さんは軽く咳払いする。


「前原さんは今おいくつでしたっけ」
「十七です高二です」
「僕は二十四です」
「見た目相応です。妥当じゃないですか」


そういう話じゃないんですよ。と斎藤さんが頭を掻いた。


「二十四ですよ次誕生日来たら二十五ですよ。四捨五入したら三十なんですよ」


もしかして斎藤さんは、年齢を理由にして私を振るつもりなんだろうか。
もしそうだとしたら、そんなの、諦めるに諦められない。
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