二人の穏やかな日常
「あのですね、母と弟は喜んでました」
『……お父さんは?』
「まだ言えてないんです。父のことを知り尽くす母も、父にはまだ言わない方が良いって」
『やっぱそうですよね……さすがにお父さんは一筋縄で行きそうもないですよね……』
斉藤さんの声のトーンがぐんと下がる。
斉藤さんとうちのお父さんも、大した会話は無いにしろ、絶対面識はあるだろうから、真面目が顔に出てるお父さんを知る斉藤さんがそうなるのも分かる。
「でもお父さん、真面目ではあるけど、優しいんです。最終的にはきっと大丈夫。それに父がゾッコンの母を味方につけれたのは、大きいです」
慰めるように取り繕うと、スマホの向こう側から小さく笑みが溢れる音が聞こえた。
『前原さん、今、ベランダ出れます?』
「ベランダ?どっちのですか?」
『僕が盆栽置いてる方のです。なんか、顔が見たいなーって』
斉藤さんは、ふわふわゆらゆらしてるくせに、そういうことをさらりと言い抜ける。
それも年の功なのか何なのか知らないけど、また顔に熱が集まる。
「今行きます!」
返事を聞かず電話を切って、ベランダまでダッシュで走り抜ける。
お母さんからの「ドタドタしない!」という怒鳴り声に返事をする余裕もなかった。