二人の穏やかな日常
……お父さんが、帰ってきた。
お母さんが私たちに頷いてから、玄関へお出迎えに行った。
「斉藤さん来たか」
「はいはい来てますよ」
お父さんのワクワクした声と、お母さんの呆れたような笑い声。
「こんばんは」
お父さんがネクタイに手をかけながらリビングにやって来ると、スーツ姿の斉藤さんが綺麗にお辞儀をした。
お父さんは、面食らったようにいくつか瞬きを繰り返す。
「……び、びっくりした。斉藤さんのスーツ姿。ていうかなんで……」
「今日は聞いていただきたいお話もあるんです」
はあ、と不思議そうに返事を溢すお父さん。
まあまあまずは楽しくお食事しましょう、と言ってお母さんがさっきのお寿司をテーブルに並べた。
「これ斉藤さんが持ってきてくださったのよ。百合、お酒出してくれる?」
「は、はい」
慌てて食器棚から二人分のグラスを取り出した。
それと、お寿司用の小皿とお箸。
……あれ、もしかしてお猪口の方が良いのかな。
いや良いや、ぐびぐび飲んでほしいし。
「しかしあれですな。さすがモデルさんとなると、普段は見慣れてるはずのスーツも、こんなに格好良いもんなのかって思いますね」
「とんでもないです。あまり着ないものですから、慣れなくて」
隆二が二人にお酌した。
さっきの、アルコール度数高め、のやつ。
「それで何ですか。聞いてもらいたい話って」
今のお父さんは完全にご機嫌。
切り出すタイミングとしては、決して悪くなかった。
斉藤さんのアイコンタクトを受けて、斉藤さんの隣にすっと腰を下ろす。
お父さんの顔に、はてなが浮かんだ。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。実は、一ヶ月ほど前から、百合さんとお付き合いさせていただいております」