二人の穏やかな日常
すっと言いきってしまった斉藤さんからは、私のような恐れは感じない。
かといって許しをすっといただけるだろう、という余裕があるわけでもない。
覚悟、その言葉が一番しっくり来る気がした。
それはなんだか、格好良い。
「百合……?」
お父さんの顔から、笑顔が消える。
「百合って、この百合ですか?うちの娘の?」
「はい」
一回乾いたような笑顔を溢したあとで、「……ほー、いやあ、びっくり」と。
それは落ち着いているけど、落ち着きすぎていて逆に怖さを感じるような声色。
「斎藤さんは、今おいくつでしたっけ」
「二十四です」
「七歳差か……」
今度は私から隆二にアイコンタクトを送る。
隆二がこくりと頷いて、まだ半分残ってるグラスにお酒をつぐ。条件反射のようにそれを飲むお父さん。
「斉藤さんが良い人できちんとしてる人だっていうのは、ただの隣人とはいえ、ちゃんと把握してるつもりではありますし、高校生になっても彼氏どころか片思いの予感すら一切なしだった百合に彼氏ができるのは嬉しいことです」
三人の視線がお父さんに集まる。
「七歳差だって、年をとるごとに小さなもののように感じていく……もっとも当の本人たちは今だってそれを気にしないくらい想い合ったから一緒になったんでしょう」
けど、と、お父さんの言葉が続く。
唾を飲み込む音が、耳によく響いた。
「それでも今の十七の百合に、七歳差は……親としてはやっぱりそう簡単に受け入れられるものではありませんね」