Office Love
どうして私なんだろう?
どうして私にこんなにも執拗にも迫ってくるんだろう?


昨日、休日に社で会った社内1,2の女誑しの佐々木修兵に声を掛けられた。
休日に社に出てくるくらいだから必要に迫られての事だと思い、それを告げれば、特別重要な用事でもなさそうだった。

しかも、親しくもない私をお昼に誘う。
いくら女誑しだからと言って、違う課の『鉄の女』と呼ばれている女を誘うとは考えにくい。
次の三課とコンペの資料を頼まれたのはつい先日の事。
それが初めて言葉を交わしたと言っても過言ではないほど遠い人だった。
私はこんな遊び上手な男の人を上手く交わせるほど、男の人に免疫がない。


上司命令に刃向かえるわけもなく、仕方なく会議室へ向かう。

「失礼します。」

先に入って、机の上に腰を掛ける佐々木さんの後ろに立つ。


「こっち。」

と、彼の前の椅子を指差された。
私は椅子に座り、彼は私の目の前の机に座ってる。
主従関係を現わしてるかの様に一段上から見下ろされている。

「資料のチェックしないんですか?」
「お前が作った資料だろ、チェックしなくても完璧だ。」
「では、失礼します。」

と、立ち上がろうとすれば、肩を押され、椅子に戻される。
このまま、ここで、この人と空間と時間を共にすれば私はどうにかなってしまうんじゃないかって思う。
どうにかしてここから逃げ出したい気持ちで一杯だけど、目の前の彼は許してくれそうもない。


「仕事に戻らせてください。」
「ダメだ。」
「どうしてでしょうか?」
「どうして戻りたい?」


質問すれば質問で返って来る。


最後の質問に答えることが出来ず俯けば、頬に彼の手が置かれた。
その瞬間、弾き飛ばすように、彼から離れる。


「そんなに俺が嫌か?」


嫌ではない。ただ、怖いだけ。
彼が怖いというのではなく、男の人が怖い。


「どうして、どうして私なんですか?」


やっとのことで絞り出された声は恐怖に満ちていた。


「どうしてそんなに震えてる?俺が怖いのか?嫌いか?」
「どうして私なんですか?佐々木さんなら、私でなくても構わないじゃないですか。」


「お前じゃなきゃ、ダメだって言ったら?」


私の耳が聞き間違えていないなら、『お前じゃなきゃダメだ』そう聞こえた。
俯いてた顔を上げれば、悲しそうな色を含む瞳が揺れてた。
どうしてそんな瞳で見つめるんですか?



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