Office Love
土曜日
カチカチカチ・・・・・・・・
休日出勤している人は疎らで、私を含めて数名。
どの人もパソコンを打つ手は止めない。

今日一日かけても多分終わらないだろうなと思いながら、時計を見れば、お昼前。
一人、外で食べるランチほど虚しいものはなく、何か買って来ようと財布を片手に立ち上がる。


「すまんな、土曜日まで。」


さらさらと茶色の髪を靡かせ、オシャレな紙袋を片手にフロアに入って来るその人は平川さん。


「いえ、仕事ですので。」


呪文の様に繰り返す、『仕事』の3文字。

「お昼、まだやろ?」と、そのオシャレな紙袋を私に差し出す。


いつもとは違った私服姿の平川さんに見惚れていたのは事実。


「ふん。」と言って差し出された紙袋を受け取るまで数秒掛かった事に彼は気付いてしまっただろうか。

「ありがとうございます。」
「ええよ、俺が休日出勤させてしもてんねんから。」


紙袋の中はいつもOL達でごった返す人気のランチメニューのテイクアウト。
中身を確認すれば、少し多めの量が入ってる。


「私、こんなにも食べれません。」
「アホか、お前の分だけちゃうわ。俺もここで食べんねん。」

え?と呆けた顔をしてたら、渡されたはずの紙袋を再度引き取られ、中身を次々に出していく。
平川さんと二人で食事?
どうしてこんな状況になっているのだろうと考える暇もなく、平川さんから、「何してんねん、早よ座り。」と促されてしまった。


全てが彼のペースに押し流され、彼の思うがままに進んでいるのかと思うと、何だか意地悪な気分になった。

「どうして、平川さんまで一緒に食べるんですか?」
はぁ?と言わんばかりの顔で見つめられ、
「あかんのかい?」
と聞き返さされた。

「ダメなことはないですが、私となんか一緒に食べなくても、平川さんなら休日をご一緒するくらいの人、いらっしゃるでしょ?」



「あー、ここにおるわ。目の前におる。」



テイクアウトされた食事のパックの蓋を開けながら、私の顔も見ずにサラリと言いのける。
瞬時、私の顔は真っ赤になり、手にしていた財布を見事に落としてしまった。
クククと喉を鳴らして笑う平川さんが憎らしくて、

「誰にでもそんな事、仰ってるんでしょ?私は堕ちませんよ。」

そう目一杯、虚勢を張って抵抗してみた。

「簡単に堕ちてもたら、おもんないわ。そうやっていつまで強がり言うてられるか?やな。」

ニヤリと上がった口角は自信に満ち溢れていた。



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