Office Love
そっと伸ばされた綺麗な手が、俺の手に置かれる。
温かいその手を握り返せば、恥ずかしそうに俯きながら、赤く縁取られた唇が微かに動く。


「・・・・好きです。」


俺の耳に届くか届かないか、それ程の声で囁かれたその言葉は、俺が今、一番聞きたかった二文字。


「何が不安なんですか?」
「何がって・・・」
「あなたは佐々木修兵なんじゃないんですか?」


胡蝶は意地悪にも以前の俺を引き合いに出してくる。
あー、そうだ。以前の俺なら、こんなことで不安になることなんか一つもなかった。
それはその女に何の感情も持ち合わせていなかったって事で、今は違う。
胡蝶が他の誰かに取られやしねぇかって、他の誰かに目移りしねぇかって、そんな事に気持ちがいって、不安になって仕方ねぇ。


「俺をこんなに不安にさせてんのは、胡蝶、お前だからだよ。」
「私?」
「そうだ。お前。」
「それは私のセリフだと思います。」
「いや、違げぇよ。俺のセリフ。」
「私に、佐々木さんなんて無理だと思ってたんです。貴方の様な女慣れしてる人と付き合っていく自信だなんてなかったんです。すぐ飽きられて、すぐ捨てられるんだろうなって。」
「なっ!!何バカな事っ「はい、それは私の思い違いだって、すぐに思い知らされました。」


胡蝶は繋いでた手をさらにきつく握り締め、言葉を繋ぐ。


「佐々木さんの一言一言が私の胸に届いて、あなたの行動が私を愛おしく思ってくれてる事がわかって、それでもあなたを信用できない私が、あなたを不安にさせてるんですね。」


胡蝶はそう言って、瞳一杯に溜めてた涙を頬に伝わせた。


「ちがっ、それは違う。俺が勝手に不安になってるだけで、お前のせいじゃ・・」


次の言葉を発する前に、お前の唇で俺のそれは塞がれてた。
あまりに唐突なお前の行動に、俺は目を見開く事しか出来なくて、
触れられた唇はすぐに離れてったけど、それがお前の本気ってことは容易にわかる。
男経験のないお前が、こんな公衆の面前でキスするだなんて、相当の覚悟だろうから。


「悪りぃ、お前にこんなことさせちまって。」


フルフルと首を横に振ってるお前の顔は林檎より真っ赤になってる。


「私は本気です。佐々木さん以外、考えられませんから。」
「俺も、俺にもお前しかいねぇし、お前以外考えらんねぇ。」


お互い、いや俺だけか、こんなにも、こんなにも溺れきってるのは。
胡蝶さえいりゃ、他は何もいらねぇ。


「修兵って呼んでくれ。」




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