Office Love
胡蝶を連れてくなら洒落たイタリアンでとも思うが、真子となら居酒屋で十分だ。
仕切りで囲われたブースに二人で座る。
外の騒々しさに比べてここは静寂に包まれてた。
何から話せば良いか思案してれば、


「修兵がな。あの修兵くんがな。」


真子にそう言われ、自分でもそうだと思う。
運ばれてきた食事に手も付けず、チビチビ酒だけに口を付ける。
俺が話さなきゃこの場は終息しない事もわかってて、何も言えねぇでいる。


「何かあったんか?貴井さんと。」


真子に促され、話を始める。


「別に俺、胡蝶を抱きたくて家に誘ったんじゃねぇんだよ。新プロジェクトに選ばれて、忙しくなる前にちょっとでも長く一緒に居たくてよ・・・」
「だから、何やねん?話全然見えへんねんけど。」


胡蝶が俺が初めての男で、まだ真っ新で。
その事実を真子に伝える事がなんだか気恥ずかしい。
この俺が、女誑しだと異名を取ってた俺が。


真子に話を聞いて欲しい俺もいて、葛藤の中ゆっくりと口を開いた。



******



修兵の話に開いた口が塞がらん。
貴井さんは今の今まで男がおらんかったとか。
そんなんはええねん。
そないな面倒な女に修兵がぞっこんや言うとこ。そこにびっくりや。


「真子から見てどう思う?俺、イカれてるか?」
「あー、相当イカれとるな。けど、ええんちゃうか?それこそ、ほんまに貴井さんの事、大事にしてんねやろ?それも向こうはわかっとるって。」
「あー。今回の事だって、他の女なら何にも気になんねぇんだと思う。けどよ、アイツが他の男と居るってだけで、仕事だってわかってても、気が気じゃなぇんだ。」
「ごちそうさん、修兵くん。それ、お惚気の何物でもないで。」


修兵にもやっと本気ってやつが来たんやな。
おもんない男や思てたけど、コイツのこんな一面見れて、なかなか楽しいわ。




***


真子に胸の内を話して少しはすっきりした気がした。

『そないに大事に思てる子なんやったら、絶対手離すなよ。』

真子の最後のその一言に俺の内なる部分がグッと掻き立てられるのがわかった。
俺自身、胡蝶とはゆっくりで良い、ゆっくりで良いからこの想いを育てていきたいそう願ってる。


あの日から一緒に居る時間が減ったから、こんなおかしな気持ちになってんだろな。
早くこのプロジェクトが終わればいい。
今はそう願うだけだ。



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