Office Love
「なに惚けとるねん。」

その聞きなれた関西弁に脳内が一気に覚醒する。
さっきまでとは違う腕の中で私は包まれていた。
いつも隣で居たけど、私には手の届かない人だと昨日までは思ってたその人。

「何をこんな男の腕の中でうっとりしてんねん?聞いてるねんっ」

昨日、あんなことは言われけど、私と平川さんは付き合ってるわけでもなく。けど、私が平川さんに好意を抱いてる事は明らか明白で。

「はぁ、七瀬、聞いてるか?」
「えっ!聞いてます、聞いてます。」

慌てて返事をすれば、鋭い眼光で睨みつけられた。

「真子、人の邪魔すんなよ。お前、今日、何しに来た?それに七瀬はお前のもんじゃねえだろ?」

グッと眉間に皺を寄せて佐々木さんが平川さんを睨む。

「はぁ?修兵さん、すんませんな。七瀬君はもうすぐ俺のもんになりますねん。」

えっ?と思ったのも束の間、掛けてた眼鏡をスッと外され、優しいキスが落ちて来た。
ズルい・・・・・・
まだ返事もしてないのに。


けど、その心地よいキスに酔いしれる。
目の前で佐々木さんが見てるのもお構いなしに、唇を絡め取る平川さんに、後で文句を言おうなんて考えながら、身を委ねる。

フッと離された唇に名残り惜しさも感じつつ、まだその場に居る佐々木さんを見る。

「見せつけてくれるじゃねぇか。」
「そらそやろ。ここでこないしとかな、お前、いつか彩葉、取って食いかねんからな。」
「あ~やってらんねぇ。これじゃ、お前らくっ付けるために来た様なもんじゃねぇか。」

そう言って佐々木さんは踵を翻し、ヒラヒラと片手を振りながらフロアを後にした。
その佐々木さんの後ろ姿を見つめてたら、

「おいっ、いつまで惚けてるねん。」

ぎゅと捻られた頬が熱を帯びて、さっき触れられた唇より熱い。

「いひゃいです。」
「あそこで俺が入って来―へんかったら、お前、どないなっとってん?」

どうなってただろう?佐々木さんに堕ちてた?
そんなはずはない。
平川さんにすら堕ちなかったのに、何の興味もない佐々木さんに堕ちるだなんて。
ただ、あんまり美し過ぎる端正な顔に見惚れてただけ。
ただ、あんなにスマートな扱いに酔いしれてただけ。
けど、そんなことは絶対言わない。
きっと、あなたは嫉妬に狂うから。


「もちろん、どうもになりませんよ。私、佐々木さんに興味ありませんから。」
「ほんまかいな?えっらいエロい顔しとったやんけ。」
「ちっ違いますよ///それは平川さんの見間違えです。」


ほんまかいな?再度聞こえて来た平川さんの声はもう遠のいてて、私の口を塞いでた。
平川さんの香りに包まれながら、優しいキスを落としてくる平川さんに身体を任せる。
ゆっくり唇を押し開けられれば、彼の温かい舌が侵入してくる。
もちろん、拒むことなく受け入れられるそれは、難なく私の中に納まって。
深まっていくキスに身体の真ん中がグズグズと疼き出すような感覚に襲われる。


「んっ////」

少し甘い声が出れば、


「そないな顔に、そないな声、俺だけにしか見せたあかんしい、聞かせてもあかん。」


と、さらにキスは深められた。
きっと私はもうあなたの虜。
手が届かないと思っていたあなたを手に入れることが出来た私は世界一の幸せ者。


「けど、まだ私は平子川さんに堕ちませんよ。」




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