To smile
やがて落ち着きを取り戻したお母さんは、
「最後にゆうたに会えてよかったです。
ありがとうございました。」
お辞儀をしながらそう告げると、
一瞬笑顔を見せてから、
背を向けて歩いて行った。
私はその姿をみながら、考えていた…。
ゆうた君は生き返るチャンスも貰えずに、
あの川の向こうに行ってしまったんだ。
私だって、運が良かっただけで、
そうなってもおかしくなかった…。
…なんで、
…なんで私は助かって、
ゆうた君は死んでしまったんだろう。
そう思うと、胸が苦しくて涙が溢れた。
自分が生きていることが、
ひどく悪いことのように感じてしまう。
「おいっ…!」
ハルの声にハッと我にかえる。
「お前…またごちゃごちゃ考えてるだろ。」
「だって…ゆうた君まだちっちゃいのに…
お母さんもすごく悲しんでるのに…。」
言葉に出すと、さらに感情が高ぶる。
「私だけが生き返って、申し訳ない…。」
すると突然、ハルが私の頬をつまんだ。
「そんなことを言うのはこの口か!?
ゆうたも母親も笑ってただろ!」
そう言われて、
私は2人の笑顔を思い浮かべる。
「お前がいたから、あの2人は笑顔で
最後の別れができたんだ。
それだけでも、お前が生き返った意味は
あるだろ。」
珍しく声を荒げるハルに驚きつつ、
私は胸の苦しみが取れていくのを感じた。